まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

(一生、罪を背負って生きる覚悟だったが、意識下では罪悪感から抜け出したいともがいているのか? 自己保身の感情を優先させてパトリシアを傷つけるとは、情けない)

 深いため息をつき、ベッドから下りた。

「怖がらせてすまなかった。夜伽はなしという約束は守る。今夜は気分が昂っているゆえ、俺は別の部屋で眠る」

 自室へ繋がるドアへ向かうと、背中に焦ったような声がかけられる。

「殿下、申し訳ございません。さっきのは、その――」

「いや、君に落ち度はないのだから謝罪は無用だ」

 ドアノブを掴んだまま肩越しに振り向けば、後悔をにじませた瞳で見られた。

 関係悪化を恐れ、我慢して抱かれたらよかったと思っているのだろうか。

 不愉快に感じてはいないと伝えたくて無理やり口角を上げたが、うまく笑みが作れない。

 さらに眉尻を下げた妻から逃げるようにドアを開けた。

「おやすみ、パトリシア」

 彼女の本名であってもクララとは呼べない。

 アドルディオンにとってクララは唯一、あの少女だけなのだ。


* * *


 穏やかな秋の夜。

 村で呼ばれていた名をアドルディオンに告げた日から二週間が過ぎた。

 湯浴みをして寝支度をしたパトリシアは侍女を下がらせようとする。

「もう少ししたら自分でランプを消すから、エイミもお部屋に戻って休んで。今日も一日ありがとう。お疲れ様」