まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

(やはりクララは生きていたのか? まて、まだ喜ぶのは早い)

 過去に自分に会っていないかと妻に問いかけた時、思いあたらない様子だった。

 当時クララは九歳で幼児ではないのだから、求婚された相手を忘れたりしないだろう。

 胸を突き破って飛び出しそうな強烈な期待を必死に押し込め、同一人物だと証明するものを思い出の中に探した。

 浮かんできたのは青空の下で、タライに入った衣類を踏みつけて洗うクララの姿だ。

(痣だ)

 スカートをたくし上げて洗濯していたので、右の太ももの内側にある痣が見えた。

 それはリンゴの花弁のような形でピンク色をしていたと、今でもはっきり覚えていた。

 焦りながら記憶を蘇らせていると、パトリシアが慌てたように言う。

「おかしなお願いをして申し訳ございません。クララと呼んでくれるのが今は母だけなのが少し寂しかっただけなんです。パトリシアの名にも慣れましたし、今のままで結構です」

 どうやら眉間に皺を寄せて考えていたため、気分を害したと勘違いさせたようだ。

 それすら訂正する心の余裕がなく、一刻も早く確かめたいと気持ちが逸る。

 彼女の手を引っ張りベッドに押し倒すと、痣を見るためにネグリジェを裾からまくり上げようとした。

「きゃっ!」

 驚いたパトリシアが悲鳴を上げ、まくられまいと抵抗する。

「おやめください。突然すぎます!」