守ってくれた恩に報いるためにも、行動を改めようと決意する。

「殿下の足を引っ張らないよう、本物の淑女を目指します。二度と木登りはしませんし、料理もしません。母に会いにいく回数も減らし、秘密が漏れないよう最大限に注意いたします」

 つらい制限を自分に課して傷ついた手を握りしめたら、その上に大きな手がかぶさった。

「君らしい君でいてほしい。その結果、眉をひそめる者がいたとしても、俺がなにも言わせない。パトリシアを守ると約束するから、いつも笑顔でいてくれ」

 思いやりのあふれた心強い約束に頬が染まり、瞳が潤んで喜びが胸の中を駆け巡った。

(作り立てのマーマレードみたいに心が熱くて、甘くて、ほろ苦い。愛ってこういう味なんだ)

 大きく膨らんだアドルディオンへの愛情を味わっていたら、急に切なげに目を細めた彼が独り言のように呟く。

「今度こそ、守ってみせる……」

 守れなかったことが前にあるような言い方をされて戸惑う。

(もうダメだと思ったのは今回が初めてだったのに。どういう意味で言ったの? 私のことじゃないのかも)

 目を瞬かせていると、無言の夫に真顔で見つめられた。

 髪や目や口、顔中に注がれる視線がくすぐったく、両手で自分の顔に触れて確かめる。

「なにかついていますか?」

 それに答えはなかった。

「辺境伯領の出と言っていたな。村の名は?」