まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「罪に問わないのが最大の慈悲だろう。ありがたく受け入れろ」

 がっくりとうなだれた父を見て、パトリシアの不安が再燃する。

(お前の不注意のせいで秘密がバレて降格になったんだから、入院費は出さないと言われたらどうしよう)

 どうやらそれは無用な心配のようだ。

 顔を曇らせた妻の胸中をアドルディオンがすぐに察してくれた。

「今後は君の母上の入院治療費を俺が支払う。安心してくれ」

「殿下……あ、ありがとうございます!」

 なにがあろうともアドルディオンなら、父とは違い約束を反故にしないと信じられた。

(お母さんの病気は必ず治る。ああ、よかった……)

 喜びと感謝が胸に込み上げ、深い安堵に包まれる。

 するとこれまで張りつめていた心が開放されて自然と涙があふれた。

 雫がこぼれる前に指先で拭いてくれたのはアドルディオンで、パトリシアに向ける眼差しは優しいが、伯爵には冷たく退室を命じた。

「呼び出しがあるまで自宅で待機していろ」

 肩を落としてドアに向かう伯爵を、ハイゼン公爵が鼻で笑った。

「いい気味ですな」

 しかし少しも喜んでいないのが表情から伝わってくる。自分の思惑通りに進展せず、かなり苛立っている様子だ。

 ひとり減った室内は再び緊張感に包まれ、アドルディオンの攻撃の矛先が公爵に向く。

「ハイゼン公爵、貴殿にも反省してもらおうか」