まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「パトリシアに対してだ。平民から急に貴族になるには、並大抵の苦労ではすまないぞ。病の母親を想う娘心につけ込み己の野心のために利用するとは、貴殿は悪魔か」

 パトリシアが言わずとも一年間の淑女教育がどれほど大変だったのかを察してくれたようで、嬉しさに胸が熱くなる。

 努力も苦労も、今この瞬間に報われたような気がした。

 急いでソファから立ち上がった伯爵が、娘に向けて腰を直角に折り曲げた。

「これまでのことはすまなかった。今後は迷惑をかけず大切にすると誓うので、どうか許してくれ。この通りだ」

 伯爵家の中では絶対権力者で家族に命令する立場の父が、娘に薄くなった頭頂部をさらしている。

 その情けない姿は心からの反省があってのものだと、半分くらいは信じたい。

「お父様、わかりました。顔をお上げください」

 利用されていると知っても、母を人質に取られているようなものだったので父に従うしかなく、悔しい思いもした。

 謝ってもらえたことでその気持ちが晴れ、父への嫌悪感も薄らいだ気がした。

 心がスッと軽くなり笑みを浮かべたが、隣に立つ夫はまだ厳しさを解いていない。

「クラム伯爵は現在、国務大臣補佐に就いていたな。信用ない者を政府の中枢に置けない。処罰としてではなく、役職の見直しがあるものと思え」

「そんなご無体な。どうかお慈悲を!」