まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

まだ貴族らしい振る舞いができない時に買い物に出かけ、その様子を他貴族に見られたら、深窓の令嬢だと言ったところで信じてもらえないだろうから。

「あのお店、レストランだわ。どんな料理があるのかしら」

興味をそそられて独り言として呟いたのだが、隣に座る兄に鼻を鳴らされた。

「随分と余裕だな。父上の言葉を真に受けて王太子妃になれるとでも思ったのか?」

隣を向けば侮蔑の視線が突き刺さる。

(そんなに嫌味な言い方をしなくてもいいのに)

不満が顔に表れぬよう気をつけて控えめに反論する。

「なれるとは思っていません。でも精一杯、頑張ります。母の治療費がかかっていますから。あの、王太子殿下はどのような方ですか?」

クラム伯爵家と付き合いのある家や有力貴族については淑女教育の中で教わった。力関係や家族構成、領地の場所や産業についてである。

王家に関しても基本的な情報は頭に入っている。

国王夫妻と王太子の一家三人が王城内で暮らし、三人の王女はすでに他家に嫁いでいる。二年前から国王が病に伏しており、政務の大半を王太子が代行しているそうだ。

『若いながらご立派に陛下の代わりを務めていらっしゃる。この国の未来は安泰だ』

国民にそのように思われていると教本に書いてあった。