まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

(私を許したら、殿下が窮地に立たされるの?)

 青ざめて美麗な横顔を仰ぎ見ると夫に少しの焦りもなく、冷淡な口調で問い返す。

「聞くが、公爵の五人の子息令嬢は皆、夫人の子供なのか? 次男と三男は髪や目の色、顔立ちが少しも夫人に似ていないが。彼らは社交界や政界から排除されても仕方ない存在だと、父親である貴殿が言うのか?」

 どうやら公爵にも庶子がいて正妻の子だと戸籍を偽っているようだ。

 権力ある家柄ゆえ表立って疑惑を申し立てる者がいないだけで、大半が知っている事実なのかもしれない。

 これではたしかに人のことは言えない立場である。

「妻の真の出自に関しては他言無用だ。噂を広めれば公爵自身に跳ね返ると心せよ」

 厳しい注意を受けて公爵は悔しそうに唸り声を漏らす。

 数分前まで勝ち誇ったように微笑んでいたエロイーズは不安げに父親の腕を掴んでいた。

 一方、クラム伯爵は許されたと確信してか、ハンカチで冷や汗を拭いて冷めた紅茶を口にしている。

 アドルディオンは安心させるような柔らかい眼差しでパトリシアを見た後、のんきに喉を潤している伯爵に鋭い視線を向けた。

「立件して処罰はしないが、謝罪は必要だ」

「は、はい」

 肩を揺らした伯爵が慌ててティーカップを置いてアドルディオンに謝ろうとする。

 それを遮るように彼が首を横に振った。