まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

(やっと本当の私を知ってもらえた。殿下をお慕いしているから、もう嘘はつきたくない)

 初めて瞳を揺らすことなく、真正面から視線を合わせられたように思う。

 彼も見つめ返してくれるが、険しい顔つきに見えた。

(処分について考えているの? 私と父は罪を免れないけれど、巻き込んでしまったエイミだけは守らないと)

「素性を偽り妻となったことをお詫び申し上げます。慈悲を請う資格はありませんが、どうかエイミだけはお許しください。私の侍女となったばかりに無理やり秘密を共有させられていただけなのです」

 必死の思いで深々と頭を下げたら、ハイゼン公爵の場違いな笑い声が響いた。

「これは失敬。たしかに殿下に頼みごとができる立場ではありませんな。学校にも通えず子供の頃から働いていたとは、想像以上に下賤なお育ちで。深窓の令嬢の真相には呆れますな」

(下賤……)

 命がけで育ててくれた母を侮辱された気がして悔しく、唇をかんで顔をうつむけた。

(一生懸命に働いて生きてきたのに、どうしてバカにされないといけないの? 私はたしかに幸せだったのに。貴族にはわからないんだわ)

 すべての貴族に心を閉ざしたくなったら、静かな怒りのこもるアドルディオンの声がした。

「笑うな。私の妻への侮辱も許さない」

 まさか庇ってもらえるとは思わなかったので、パトリシアは目を丸くした。