まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「私の生まれはケドラー辺境伯領内の小さな村です。母はクラム伯爵家のメイドでしたが、私を身籠ったために解雇され、実家にも頼れずひとりで産んで育ててくれました。学校にも通えない貧しさでしたが、不幸だと思ったことは一度もありません」

 母から愛され、困った時には村人が助けてくれた。労働の日々の中でも楽しみはたくさんあり、幸せだった。

 母が病気になるまでは。

「母が病に倒れたことで、私は父が誰であるかを初めて知りました」

 自分亡きあとの娘の生活を案じた母が手紙を送り、父が迎えに来た。

 父の目的は伯爵家のためになる結婚を娘にさせるためで、少しも愛されていないのには傷ついたが、母の入院費と引き換えに取引に応じた。

 そして一年間、厳しい淑女教育を受け、昨年末の舞踏会に臨んだ――という事情を包み隠さず打ち明けた。

 静かに聞いてくれたアドルディオンはなにを思うのか。

 生まれた地を口にしたら目を見開いて、その後はなにかを逡巡しているような顔をし、パトリシアが話し終えると小さくかぶりを振っていた。

(私に失望したのよね)

 どんな処罰がくだされるかと思うと恐ろしく、それ以上に母の病を治せなかったのが身を切られるようにつらい。

 アドルディオンを騙していたことへの申し訳なさも強く感じるが、ほんの少しだけホッとしている自分もいた。