まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「具合が悪いの。部屋に連れていって休ませてあげて。必ず誰かがそばについていること。エイミをひとりにしないで」

 エイミがパトリシアに向けて手を伸ばす。一緒に逃げようというかのように。

「私はここに残るわ。やるべきことがあるから。大丈夫、心配しないで」

 絶体絶命の状況であるが、エイミの涙を止めたくて気丈に微笑み送り出した。

「他の者も呼ぶまで下がっていろ」

 アドルディオンの命令で使用人たちは退室し、ドアが閉められた。

 五人だけに戻った室内の空気は緩むどころかさらに張り詰め、テーブルの前に立つパトリシアは夫に深々と頭を下げた。

「ハイゼン公爵の仰った通り、私の母はクラム伯爵夫人ではございません。素性を偽ったこと、大変申し訳なく思っております。本来ならこうして殿下にお声をかける資格もありませんが、どうか本当の出自を話す機会をお与えください」

 顔を上げると、ソファに座るアドルディオンに射るような視線を向けられた。

 しかしその目に怒りや非難の感情は読み取れず、真実が聞きたいと切望しているような感じがする。

「聞こう」

 はっきりとした口調で許可してくれた彼に一礼して感謝を示すと、自ら生い立ちを語る。