まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 目を見開いたパトリシアは慌てて駆け寄ろうとする。

「エイミ!」

「やめろ!」

 立ち上がったアドルディオンの命令も、死を覚悟したエイミの耳には届いていない様子で、ナイフの柄を握る両手に力が込められた。

「死んでお詫びいたします」

 テーブル越しに伸ばされたアドルディオンの片手が、エイミの腕を掴んだ。

 それとほぼ同時にパトリシアがナイフの刃を握りしめて奪い取る。

 エロイーズが悲鳴を上げ、公爵と伯爵は両手を顔の前に出して自らを守ろうとしていた。

 自分の血が染みたナイフをパトリシアが後ろに投げ捨てると、エイミが悲痛なうめき声をあげて崩れ落ちそうになる。

 その体を正面から抱きとめた。

「パトリシア様が……私のせいなのに……」

「エイミ、よく聞いて。あなたが言わなくてもバレていたのよ。少しもあなたのせいじゃないわ。謝らなければならないのは私の方。エイミの実家まで巻き込んでしまった。秘密を抱えるのは苦しいわよね。あなたにまでつらい思いをさせて、本当にごめんなさい」

 ドアはエイミが開けたままになっていた。

 騒ぎを聞きつけて従僕とメイドが数人駆けつけ、絨毯に転がったナイフや泣きじゃくる侍女を見て驚いている。

「こ、これは一体どうなされましたか?」

 パトリシアはエイミをぎゅっと強く抱きしめてから離し、メイドに預けた。