まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 絨毯に額をすりつけるようにしてエイミがむせび泣いている。

 様子がおかしかった理由はこれだった。この二日間、いつどのような形で公爵がパトリシアの秘密を公にするのかと気が気ではなかっただろう。

 その心労を思うと可哀想で、胸が締めつけられた。

(直接私に言えばいいのに、どうしてエイミに)

 エロイーズが気づいてからひと月ほど色々と調べていたのなら、侍女を脅すよりも前から素性はわかっていたのではないだろうか。

 わざわざエイミに白状させたのは、パトリシアにすぐに負けを認めさせるためかもしれない。

(私がうまく言い逃れたら、エイミが嘘をついたことになって罰せられるから。侍女を切り捨てられないだろうと公爵は考えたのかも。エイミを巻き込んでしまって申し訳ない)

「エイミ」

 震える肩にそっと指先を触れたら、エイミがビクッと体を揺らした。

「パトリシア様……」

 悲痛な表情のエイミは罪悪感に耐えきれないといった様子で立ち上がると、突然テーブルの方へ向かった。

 テーブルにはティーカップが四つと高脚の大きな銀製の鉢がひとつ置かれていて、夏の果実が皮をむかないまま盛られていた。食べるためではなく花と同じで装飾品である。

 鉢には精緻な彫刻を施した銀のナイフが添えられており、それを掴んだエイミは切っ先を自分の喉に向けた。