まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

(でも、これだけ着飾れば私でも貴族っぽく見えるわね。馬子にも衣裳だわ。エイミがきれいと言ってくれたんだから、それを信じて頑張ろう)

元来は明るく前向きな性格である。鏡に映る華やかな自分を心の中で鼓舞したら、ドアの向こうからロベルトの怒声が響いた。

「なにをもたもたしている。出発時間を過ぎたぞ。俺を待たせるな!」

「は、はい。ただいま参ります」

襟にファーのついた外套を羽織ったパトリシアは、エイミに見送られて急いで自室を出た。礼服姿のロベルトとともに馬車に乗り、雪のちらつく中を王城へ向かう。

辺りはすっかり夜の暗さだが、道幅の広いメインストリートに出ると周囲がよく見えた。

外灯が等間隔に立ち、軒を連ねる店々の窓は明るい。

この辺りは石やレンガ造りの四、五階建ての立派な建物が並んで、一階は店舗、二階以上は集合住宅となっているそうだ。

生まれ育った村には平屋しかなかったので物珍しく車窓を眺める。

(どんな品物があるんだろう。お店の中を覗いてみたい)

この一年間、月に一度の母のお見舞い以外の外出を禁じられていたため、どの店にも入ったことがない。

遊びにいく暇があるなら勉強しろという意味かと思っていたが、出自がバレるのを防ぐ意味合いだったのかもしれない。