まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 そのように問いかけられてギクリとしたが、メイド服を着ていたし、顔をはっきりと見られたわけでもないのでバレていないはずだ。

 母の向かいの病室に入院となったのはやはりエロイーズの祖母で、あれ以来、注意して通っていた。幸いにもその後、病院内でハイゼン公爵家の人に会っていない。

 鉢合わせから二か月以上も経っており、メイドとぶつかったことをエロイーズは覚えていないだろう。

(だから大丈夫)

 いい方に考えて落ち着こうと胸に手をあてた。

 化粧直しをしているとエロイーズが到着したとの知らせが入り、パトリシアは私室を出た。二階の南棟にある応接室へ向かう。

 なにぶん広いお屋敷なので、たどり着くまでに数分を要した。

 濃い木目の扉の前に立って深呼吸をする。

(私に会いに来てくださったんだもの、仲よくなろうと思っているんだわ。私も苦手意識を持たず、笑顔で話そう)

 きっと楽しい謁見になると信じて口角を上げ、ノックしてからドアを開けると――。

「お待たせいたし……えっ?」

 前庭に面した窓のある室内には、エロイーズ以外に三人いた。

 アドルディオンとハイゼン公爵、それと父であるクラム伯爵だ。

 ハイゼン公爵とは結婚式で会っており、お祝いの言葉をかけてもらったが、笑顔なのに目が少しも笑っていないのが怖かった。その時、以来である。

 父と会うのも同じくらい久しぶりだ。