まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 廊下に出たパトリシアは、はしたないと思われようとも城医を呼びに走った。

 診察の結果は特に異常はなく、疲労が溜まったのだろうと言われて胸を撫で下ろした。

 今日と明日は仕事をせずに休むようエイミに伝え、そばを離れる。

 時間がないので昼食はパンを半分食べて終わらせ、急いで私室に戻るとスケジュールを確認する。

(午後は謁見予定が二件。十四時からの一件目はエロイーズ嬢……なのよね)

 最初は他の貴族との謁見が入っていたのだが、昨日突然、体調が思わしくないとの理由でキャンセルの連絡があった。

 そのすぐ後にハイゼン公爵家から謁見の申し込みが来たのだ。

 王太子妃はエロイーズで決まりだと噂されていた中での逆転劇であったため、会うのが気まずい。

 正直に言うと断りたかったが、上級貴族との交流も妃の務めだと思い自分を戒めた。

(エロイーズさんはどうして謁見を申し込んだのだろう。舞踏会ではショックを受けていたようだけど、もう気にしていないということ? 結果的に横取りした形になって、会いにくいと感じているのは私だけ?)

 彼女の胸の内を予想できず、落ち着かない。

 緊張している理由は他にもある。母の見舞いで病院に行った時に、エロイーズと鉢合わせたことがあったからだ。

『どこかでお会いしなかったかしら?』