まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 それを話すとエイミが弱々しく首を横に振った。

「大丈夫です。仕事は楽しいですし、パトリシア様がそのようなお気を使う必要はありません。少し休んだら元気になりますから」

「でも」

「本当です」

 玄関ホールで押し問答を続けては、それこそ休まらない。

「とにかく今はお部屋に戻りましょう」

 遠慮するエイミの腕を引いて侍女部屋まで送り、半ば強引にベッドに横にならせた。

 額に手をあてると熱はないようで少しホッとした。

「今、付き添いのメイドとお医者様を呼んでくるわ」

 本当は自分がつきっきりで看病したい気持ちだが、残念ながら午後も仕事がある。

 ベッドサイドのテーブルに水を注いだコップを置き、急いで部屋を出ようとすると呼び止められた。

「パトリシア様、あの!」

 切羽詰まったような声にドアノブを掴んだまま振り向いたが、エイミは続きを言わない。

「エイミ?」

「い、いえ、なんでもございません……」

 眉尻を下げたエイミは唇を震わせ、怯えているようにも見えた。

(相当、具合が悪かったのね。そういえば)

 一昨日から口数が少なかったように思う。話しかければ笑顔で応えてくれるので体調不良とまでは思わなかった。

 気づいてあげられなかったことが悔やまれる。

「お薬を飲めばきっとよくなるわ。待っていて」