まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 そのリズムは今までよりも甘く、しめつけられるような切なさもあり、彼に惹かれているのに気づく。

「すごく嬉しかったです」

 こちらに真顔を向けたアドルディオンに、頬を染めて気持ちを打ち明ける。

「あの子を救ってくださってありがとうございます。民に寄り添う殿下のお優しさに胸を打たれました。私は、殿下を――」

 大きく膨らんだときめきが、自然と口をついて出ようとしている。

「おし――」

『お慕いしています』と言いたかったのだが、唇に人差し指をあてられ妨げられた。

 彼は明らかに困り顔で不愉快そうにも見え、目線も逸らされてしまう。

「城に着くまで眠る。君も休むといい」

「は、はい」

 腕組みをして目を閉じたアドルディオンから拒絶を感じた。

(嫌なんだ。私に好意を示されるのは。そうよね……)

 舞い上がってしまったのを反省し、芽生えたばかりの恋心にそっと蓋をした。

(形だけの妻に慕われても煩わしいだけ。最初からわかっていたことよ)

 今さらなにを傷つく必要があるのかと思うのに、寂しさがこんこんと湧き出るようだった。



 帰路は無言で気まずい時間を過ごし、城に着けば政務に忙しい夫とは別行動である。

「パトリシア様、お帰りなさいませ。お疲れ様でした。昼食の準備が整っております」