まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「食べ物をくれるってこと?」

「そうだ。君はこの後、軍の管理棟で今の生活状況を詳しく話すんだ。支援を約束する。二度と飢えさせはしない」

 少年にとってまさかの結果だったようで目を丸くしている。

 パトリシアも驚いたが、胸に温かな喜びが湧いて微笑んだ。

(殿下はお優しい)

 一瞬でも非情だと思ってしまったのを反省した。

「あ、ありがとうございます」

 少年がホッとしたような顔をしてひざまずき、頭を下げた。

「靴を投げてごめんなさい」

「一度目は不問にする。しかし二度目は俺の意向だけで許してやれないだろう。今後、困りごとがあれば投げる前に相談してくれ。相談窓口も周知しなければならないな」

 少年が素直に頷いた後には、セレモニー中よりも大きな拍手と歓声が沸いた。

「王太子殿下、万歳!」

 風に乗って会話が届いていたのだろう。

 アドルディオンの温情に感激した様子の市民たちが興奮している。

 騒動になってはいけないと数十人の兵士がただちに動き出し、解散させようとしていた。

 夫妻は安全のために馬車へと急かされる。

 走り出した馬車内で隣を見ると、アドルディオンはなにごともなかったかのようなすまし顔をしていた。

 美麗で涼やかな目や銀色の髪は気高くも冷たい印象を与えるが、その心はとても温かい。

 夫への信頼と尊敬がしっかり心に根を張り、鼓動が高鳴った。