まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 結婚式や葬儀ではないのだから不適切だと言いたげだ。

「そ、そうでした。申し訳ございません」

(おかしな言い訳をしてしまった)

 眉尻を下げたパトリシアが笑ってごまかそうとしたら、アドルディオンが後ろの近侍に振り向いた。

「青いズボンを用意してくれ。着替える」

 自分が妻に合わせようというのだろう。その気遣いにパトリシアは驚き慌てた。

「お待ちください。殿下が合わせる必要はございません。気まぐれにおかしなことを申し上げてしまいました。どうかお聞き流しください」

 煩わしい思いをさせたと謝ったが、目を細めた彼の手が頭にのせられた。

「俺が着替えたいと思ったんだ。夫婦で色を揃えた方が皆も喜ぶだろう。よい意見をありがとう」

(式典の出席者に夫婦円満をアピールできる、ということ?)

 メリットを考えて青いズボンに穿き替えると言ったようだが、一番の理由は妻を喜ばせたかったからではないかとアドルディオンの心情を深読みした。

(だって、殿下は私に優しいから)

 部屋を移ってからというもの、ジュエリーやバッグ、花や本などを毎日のようにプレゼントしてくれる。ふたりきりの時間には『君の話が聞きたい』と言って、ただの日常生活の報告でも興味を持って耳を傾けてくれた。

 嬉しくなって、つい母の見舞いに行った話をしそうになり焦ったこともあった。