まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

(童話にも、こんなに麗しい王子様は出てこないわ)

 凛々しさ、頼もしさも立ち姿から伝わってきて、頬が勝手に熱くなり言葉が出ない。

 すると近づいてきて半歩の距離で立ち止まった彼に顎をすくわれ、顔を覗き込まれた。

「どうした?」

 無言の妻の心情を読みたかったようだが、周囲に人の目がある。

 エイミとジルフォードがそばにいるし、掃除やリネン交換をしているメイドがあちこちの部屋を出入りしていた。

 メイドたちは五人ほどが近くにいて、見ていないふりをしながらこちらの様子を窺っており、困りごととはこれであった。

『今朝の妃殿下は寝不足のご様子だったわ。きっと昨夜はご寵愛をたっぷり賜ったのよ。よだれが出ちゃう』

『仲がよろしくていらっしゃるのね。お世継ぎを身籠られるのはいつかしら。お菓子を賭けて当ててみましょうよ』

 面白がるメイドたちのヒソヒソ話が聞こえた時には、穴があったら入りたい心境にさせられた。夫婦円満をうまく演じられているのはいいけれど、それ以来、使用人の目を気にしてしまうのだ。

 顎先にかかる長い指に鼓動を高まらせつつ、慌てて言いつくろう。

「ぼんやりしてすみません。殿下のお召し物を拝見して、着替えようか考えていたんです。お色を合わせた方がいいかと思いまして」

「合わせるとすると、白か黒のドレスになるが」