まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 過激な内容の本を読んだのがバレていて、共寝に勝る羞恥に襲われた。

 火を噴きそうなほど顔は熱く、いたたまれなくなったパトリシアは両手で隠した。

「私の勘違い、ですか……?」

「当たり前だろ。ジルフォードは欠かせない存在だが、仕事上だ。俺は男を恋愛対象にしない。それはジルフォードも同じだ」

『だから言いましたのに』というエイミの声が聞こえそうな気がした。

「それじゃあ私は……。離宮に休憩をしにいらした時のこと、申し訳ございません……」

 勘違いで余計な気を回したのを小声で詫びる。

 パトリシアが本に影響されていたと知らないうちは、随分と困惑させたことだろう。

「まったくだ。君に嫌われたのかと思うと、仕事が手に着かなかった」

「申し訳――えっ?」

 顔を覆っていた両手を外してアドルディオンを見る。

(私に好かれたいってこと?)

 一瞬、そんな解釈をしてしまい動悸を加速させたが、涼やかな目を見てすぐに思い直す。

(誰だって嫌われて平気な人はいないわ。私は一応、妻だし、夫婦円満を演じるためにも嫌われると困る……そういう意味よね?)

 考え中の妻の心を読もうとするかのように、瞬きもせずに彼が見つめてくる。

 恋愛感情はないとわかっていても恥ずかしく、目の下まで薄い毛布を引き上げた。