まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「それは違う。興味のない女と寝るほど暇ではない」

(どういう意味? 寝室を一緒にしたのは〝仕方なく〟なのよね?)

 夫婦仲が悪いのかとの周囲の心配を払拭するためではなかったのか。

 まるで妻に関心があるかのような言い方にパトリシアは困惑した。

「あの」

 真意が知りたくて寝返りを打つと、オイルランプの弱い光の中、アドルディオンがこちらをじっと見ていた。

 手を伸ばせば簡単に触れられる距離に美々しい顔があり、心臓が大きく波打つ。

(ど、どうしよう。ドキドキしすぎて頭が真っ白になりそう。黙っていたらおかしいわよね。なにか言わないと……)

 きっと気づかれたくないだろうと思い、これまでは彼と近侍の恋愛について踏み込むことはしなかった。

 しかし少しの余裕もない今は頭が回らず、配慮のない問いかけをしてしまう。

「あの、ジルフォードさんを大切に想っていらっしゃるのですよね? 私に興味があるような言い方をすれば傷つけてしまうかと……」

 今頃、苦しんでいるに違いない近侍に同情して意見すれば、彼の眉間に深い皺が刻まれた。

「ジルフォードの言った通りだったか。おかしな本に影響されるな。叔母上にも注意しておく」

 どうやら夫は叔母から本を譲られたと知っているようだ。

 パトリシアが本の主人公とジルフォードを重ねて見ていたことにも気づいているらしい。