まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

貧しい村娘だった時から肌身離さずつけているネックレスがある。

安物のチェーンに通したペンダントトップは故郷の海の色に似た宝石で、子供の頃に手に入れたものなのだが、その過程を少しも覚えていない。

特別な思い入れはないけれど色に惹かれて大切にしていたら、いつの間にか心を落ち着かせるお守りのような存在になっていた。

伯爵邸での厳しい淑女教育に歯を食いしばる日々の中で、夜な夜な胸元から引っ張り出してはその色を眺めて心を慰めたのだ。

外したくないが舞踏会につけていくのに相応しいものではないとわかっているため、なにも言わずに頷いた。

取り外されたお守りをぎゅっと握ってから、大切に鏡台の引き出しにしまう。

(胸元がスースーして心細い。ただの村娘の私に王太子妃を狙えだなんて、あんまりな要求だわ)

心の盾を失った気分でさらに落ち込むと、エイミが励ましてくれる。

「誰がなんと言おうとパトリシア様は立派な貴族です。旦那様の娘なんですから当然ですよ。もっと威張ってください。こんな風に」

エイミが顎先を上向け、作ったような声で高飛車な言い方をする。

「伯爵令嬢のこの私と踊りたいと仰るの? 仕方ありませんわ。お相手になって差し上げてもよろしくてよ」

少々童顔で可愛いエイミには似合わない態度に、パトリシアは吹き出して笑う。