まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 寝室を同じにしなければならない事情も聞いていたはずなのに、夫にその気はないといくら言ってもエイミには伝わらなかった。

(ただ同じ部屋で寝るだけで、触れ合うことはないわ)

 そう信じていても初夜という言葉に反射的に頬が染まる。

 リボンやフリルが多めのシルクの白いネグリジェは真新しいもので、体の線がはっきりわかってしまうのが気になった。

「この寝間着じゃないとダメ? 今まで着ていた綿のものの方が楽なんだけど……」

「ダメです。今夜だけは一番上等なお召しものにしてください。髪も整えますよ」

 鏡台の前に引っ張っていかれ、有無を言わさず座らされた。

 髪を梳かしてサイドを編み込んでいるエイミに、パトリシアは眉尻を下げる。

「寝るだけよ? わざわざ編まなくてもいいと思うわ」

「なにを仰っているんですか。初夜は気合を入れて身支度するものです。アクセサリーはつけられないので、髪形は工夫しないと。香水もつけましょう」

 上流階級の閨の作法は、嫁ぐ前の淑女教育で本を読まされたので一応理解しているつもりだ。

 過去には意に染まぬ結婚で夫の寝首をかこうとした妻がいたそうで、武器になりそうな貴金属を身に着けないのが習わしなのだそう。

(そうだった。これは外さなければならないんだ)

 パトリシアはネックレスの留め具に指をかけた。