まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 事情はわかったが、同じベッドに入るのを想像しただけで緊張や恥ずかしさが押し寄せてくる。

(どうしよう。断ることはできないわよね?)

 国王が長患いをしている中、王家は安泰だと国民に示すための結婚だ。夫婦円満を演じなければ意味がない。

 妃にしてもらえたことでグラジミール卿との結婚を免れ、母の入院費の心配もなくなり、恵まれた住環境を与えてもらってアドルディオンには感謝している。

 そのくらいの協力はしないとと思っても、動揺を隠せなかった。

 眉尻を下げて目を泳がせていたら、チラリとこちらを見た彼に小さなため息をつかれた。

(本当は、殿下はお嫌なんだ。そうよね、恋人がいるのに私と寝室を同じにしたくないわよね。きっとジルフォードさんも傷ついているはず)

 ふたりの恋を応援するつもりがお邪魔虫になってしまい、肩を落とす。

 すると夫が背を向けて足を進めた。政務に忙しく長居はできないのだろう。

 心なしかその背に哀愁を感じる。

 控えていた従僕が玄関ドアを開けると、雨音が大きく聞こえた。

 人を遣わすのではなく自ら伝えにきたのはどうしてだろうとふと思ったが、多忙な彼に問いかけられなかった。

「必要なものは揃えてあるが、どうしても持っていきたい物だけ昼間のうちに運んでくれ。大きな荷運びは後日、晴れてからでいい」