まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「雨の中、お越しくださいましてありがとうございます。ただいまお茶の席をご用意いたします」

 パトリシアが指示をしに行こうとしたら呼び止められた。

「今は休憩時間ではないからすぐに戻る。パトリシアに直接伝えたいことがあって来ただけだ」

「は、はい、どのようなお話でしょう?」

 アドルディオンと二歩の距離を置いて向かい合い、端整な顔を見ながら待つ。

 心なしか彼の頬は赤く、言いにくい話をしようとしているかのように黙っていた。

 数秒してから真顔で切りだす。

「君の私室を大邸宅に用意した。離宮は閉鎖するゆえ、今日から部屋を移ってくれ」

「えっ」

 突然の指示に目を丸くしたが、さらに驚きの言葉が続く。

「君と俺、それぞれの私室の間に夫婦の寝室を設けた。今夜からベッドは同じだ」

(一緒に寝るというの!?)

 声も出せないほどの仰天命令に、冗談ではないかと夫の顔をまじまじと見てしまう。

 その視線を避けるように横を向いた彼が、問うより先に理由を付け足す。

「夫婦仲が悪いのではと疑う声があるそうだ。仕方あるまい」

「そ、そうだったんですか」

 前に叔母から『こんな離宮に押し込めて、お可哀想に』と同情されたのを思い出していた。

 人の多い大邸宅より離宮の方が気楽に暮らせるとパトリシア自身が喜んでいても、周囲からは哀れまれるようだ。