まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「エイミが調べてきた噂だってあるじゃない」

 男性ふたりの密会現場を目撃したメイドが高額の口止め料をもらったという噂だ。

 するとエイミが手帳を開いて、読み上げるように説明する。

「従僕同士の熱愛と判明。実際の口止め料は高額ではなく、誇張されて噂が広まった。これが私の調査結果です」

「殿下とジルフォードさんではなかったの。でも……」

「パトリシア様は本に影響されすぎです。大体あの本は作り話ですからね?」

「そうなの!?」

 実話だと思い込んでいたため驚いたら、ドアがノックされた。

 対応に出たエイミがメイドからの知らせを伝える。

「王太子殿下がお見えになられたそうです」

「えっ、まだ十三時半よ?」

 何時に来るとは決まっていないが、今までで一番早い訪問時間である。

「いつもより早いですね。でもよかったです。お見舞い時間と重ならなくて。お茶の席にお通ししておきながら、パトリシア様がお会いにならないのはどうかと思います」

(私が会いたくないわけじゃないわ。殿下の方が、私の出迎えが必要だとは思っていないでしょう。それにしてもどうしてこの時間に? 殿下も外での公務が雨でキャンセルになったのかしら)

 待たせては申し訳ないので急いで私室を出て螺旋階段を駆け下りる。

 玄関ホールに着くと、雨避けの黒いマントを着たままのアドルディオンが待っていた。