まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

鏡台に向かって座るパトリシアは鏡越しに目を合わせ、その気遣いに応えようと無理して笑みを作った。

「エイミ、ありがとう」

エイミはパトリシアのために雇われた男爵家の長女である。

二歳年下の十六歳で、顎の長さで切り揃えたくちなし色のストレートヘアがよく似合っていた。気立てがよく朗らかな性格をしており、クリンと丸い目やそばかすが可愛らしい。

上手に髪を結ってくれるエイミにパトリシアの眉尻が下がる。

いつもは着替えも髪を結うのも自分でしているが、夜会用のドレスはひとりでは着られない構造で華やかに髪を飾る腕もないため今日はエイミの手を借りた。

村娘の自分の世話を本物の貴族令嬢にさせているのが申し訳ない。

「手伝わせて、ごめんなさい」

「私はパトリシア様の侍女ですから、当たり前のことをしているんです。謝らないでください」

「だってあなたは貴族なのに」

「名ばかりですよ。父は領地のない雇われ人です。お嬢様は私に気を使いすぎなんです」

弟と妹が六人いて生活に余裕がなく、実家を支えるために奉公しているという話は出会った日に聞いた。

エイミとすぐに打ち解けて仲よくなれたのは、家族のために頑張るという姿勢が同じだからだろう。

髪を飾り終えたエイミが一歩下がって仕上がりを確かめる。

「いけない。ネックレスを取り替えるのを忘れていました。こちらは外しますね」