まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 エイミにそれをお願いすれば、自分はいなくてもいいのではないだろうか。

 二日前に彼が来た時は挨拶のみで、五分ほどで退室した。それなら最初から近侍とふたりきりにしてあげるのとあまり変わらないだろう。

「ねぇ、エイミ」

 向かいのソファに座っているエイミは手帳を開いて、なにかを熱心に書き込んでいる。

 離宮に来てからのエイミの趣味は情報収集だ。

 パトリシアのためになればと思い始めたそうだが、いつの間にか王城内での熱愛や不和、スキャンダルに夢中でゴシップを集めるようになっていた。

「これからお見舞いに行くわ。もし殿下がいらしたら、私は買い物に出かけたと言ってほしいの。でもお帰りいただかなくていいわ。いつものようにお通ししてジルフォードさんを呼んでくれる?」

 手帳を閉じたエイミが目を瞬かせた。

「王太子殿下に少しもお会いにならないのですか?」

「うん。その方が殿下もジルフォードさんも嬉しいはずよ」

 ふたりが恋仲であるという秘密をエイミにだけこっそりと話してある。

 彼らふたりきりの時間を作るのに、協力してもらわないといけないからだ。

 しかしいつもジルフォードを呼びにいってくれるものの、エイミは信じていない様子。

「どう考えても違うと思うんです」

「くっつくくらいに顔を寄せて話していたのよ?」

「聞かれたくない政治の話なら、仕方ないと思います」