まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 ふたりの恋路を邪魔する気は少しもないのに、ジルフォードにとって妃は恋敵になってしまうのか。

 恋人の妻にいい感情を持てないのは仕方ないのかもしれないが、毒殺を疑われるのは心外だ。

「そんなひどいこと、私は絶対にしません」

 椅子から腰を浮かせ身を乗り出すように主張すると、近侍が困り顔をした。

「誤解を招く言い方をしまして申し訳ございません。毒見は決まりなのです。国王陛下と王太子殿下が口になさるものは、必ず毒見してからとなっております。妃殿下を疑っておりませんが、他者が異物を混入する機会がまったくなかったとは思えませんので」

「そうですか……」

 そういえばこれまで、休憩しにきたアドルディオンが離宮でなにかを口にするのを見たことがない。

『あら、今日もすべて残ったまま。お茶も飲んでいらっしゃらない』とエイミが少し気にしていたのを思い出した。

 王城に長く勤めている使用人なら毒見のルールを知っていたと思われるが、パトリシアの指示に従い用意してくれていたのだろう。

 今日も彼のグラスの紅茶はひと口も飲まれぬまま、氷がすっかり溶けてしまった。

(言ってくださったらよかったのに)

 知らなかったとはいえ、マドレーヌを押し売りしたのを反省した。

 近侍が来なければ、毒見の決まりを破って食べていたことだろう。