まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 鬼ごっこもしたのだが、手加減してはつまらないと思い、髪の乱れを気にせず本気で追いかけ回したら小さな子を怖がらせてしまった。

 バツの悪い思いで白状し、その直後に余計な話をしたと後悔する。

(王太子妃がなにをしているんだと叱られそう)

 肩をすくめて顔色をうかがったが、アドルディオンが吹き出して肩を揺らした。

(鬼ごっこも許してくださるんだ)

 ホッとすると同時に、鼓動が温かく高鳴り頬が染まった。

(殿下が笑っている……)

 公務や催しではいつも紳士的な笑みを浮かべている彼だが、心のこもらない作りものにはときめかない。

 声をあげて笑うと親しみやすい印象になり、その方がはるかに魅力的に感じられた。

「君らしい遊び方だな」

 まるでパトリシアをよく知っているかのような言い方に目を瞬かせる。

「え?」

「いや、なんとなく。子供との遊びであっても君なら全力を出しそうな気がしたんだ」

(殿下の中の私のイメージって……)

 妻が淑女でなくても気にしないようだ。

 それを理解すると、少しだけ素顔を見せたくなる。

「おかしいと思われるかもしれませんが、実は私、料理をするのが好きなんです。たまに調理場に入ってパンやお菓子を作り、離宮で働いてくださる皆さんに食べてもらっています。孤児院への差し入れも私が焼きました」

「へぇ、それは知らなかった」