まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 鼓動が速まるのは、口説かれていると勘違いしているせいではない。出自をごまかしているので、探られては困るという意識が先に働く。

 答えにくい質問をされる前にと思い、自分から話題を選んだ。

「わかりました。では今日の私がなにをしていたのかお話しします。午前中は孤児院を訪問して――」

 王都の西側に王立の大きな孤児院がある。

 昨年、アドルディオンの指示で建て替えられ、真新しい白レンガの壁がきれいだった。

 孤児院の定期的な慰問は以前から妃の役目と決められているそうだが、有力者との交流を目的とした他の公務よりもパトリシアの性に合っていた。

 可愛い赤ちゃんを抱っこさせてもらい、元気な子供たちと一緒に遊ぶのを心から楽しんだ。

 肉親と暮らせない悲しい状況下でもみんな笑顔で、将来の夢をしっかりと持っていた。

 子供たちの弾けるような笑顔は孤児院の運営に十分な予算が組まれ、従業員教育がしっかり行われている証拠だろう。

 それを監督しているのが王太子で、民を想う彼の政治を頼もしく思った。

「歌ったり輪になって踊ったり、子供たちとたくさん遊びました」

「そうか。王族が訪問すれば喜ばれる。子供たちの笑顔が目に浮かぶな」

「あの、それが、何人かを泣かせてしまいまして……」