まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 にわか貴族の自分に王太子が照れるはずはないと思うので、真夏の屋外を歩いてきたせいだろうと解釈する。

 形のいい額には汗の粒が光っていた。

「お茶をご用意いたしますので、少々お待ちください。エイミ」

 控えている侍女に指示をする。

「紅茶と一緒に氷を入れたグラスとレモン、冷たいタオルもお願い。涼しい風が入る北側のお部屋に運んで」

 貴族のおもてなしは温かい紅茶が基本だが、暑い日は冷やした方が飲みやすい。氷入りのグラスにレモンを絞り、ティーポットの熱い紅茶を注ごうと思っていた。

 レモンは疲労回復効果があるので、政務に追われる彼にぴったりの飲み物だろう。

 離宮で一番涼しい部屋に急いでお茶の席を整え、アドルディオンを通した。

 白い天板の丸テーブルに向かい合って座ると、エイミがメイドと一緒に飲み物とアップルパイ、サンドイッチ、カットフルーツを並べてくれた。

 エイミたちが一礼して下がり、ふたりきりの空間に緊張が増す。

 パトリシアの表情が硬いのに気づいたのか、彼の方から話しかけてくれる。

「冷たいレモンティーか。気遣いをありがとう」

「は、はい」

「だが、もてなそうとしなくていい。気を楽にしてくれ。俺は話をして君を知りたいだけだ」