まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

(あれ以降、離宮によく来るようになったわ)

 木登りを見られてからというもの、二、三日おきにやってきてお茶の席をともにしている。

(政務でお忙しいのでしょう? どうして会いに来るの?)

 多忙を理由に結婚しても妻を構う気はないと言っていたのに、どういう心境の変化だろうか。

『これは恋です。王太子殿下はやっとパトリシア様の魅力に気づかれたんですよ。よかったですね。私もホッとしました。形だけの夫婦なんて寂しいですから』

 この前、エイミがそう言って目を輝かせていたが、パトリシアは頷けなかった。

(殿下が私を好きに? 木登りがきっかけで? 呆れられることはあっても、それはないでしょう)

 目の前で足を止めたアドルディオンにスカートをつまんで淑女の礼をとる。失礼のないようにと緊張した。

「ごきげんよう、殿下。暑い日差しの中、ここまで足をお運びくださいまして誠にありがとうございます。今日はどのようなご用でしょう?」

「堅苦しい挨拶はよい。仕事の合間に休憩しにきただけだ」

 彼の口角は下がり、不満そうに見える。

(やっぱり私に好意があるというのはエイミの思い違いよ)

 しかし瞬きもせずにじっと見つめてくる目はなぜか切なげで、パトリシアは困惑した。

「あの、私の顔になにか?」

「いや、気にするな」

 ハッとしたように目を逸らす彼の頬は赤い。