まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「本日はお会いくださいましてありがとうございました」

「こちらこそ、楽しい時間に感謝いたします。またいらしてください」

「我が家の催しにもぜひお越しくださいませ。近日中に招待状をお送りいたします。王太子妃殿下がいらしてくださったら、招待した他のお客様も大喜びいたしますわ」

 お世辞に対してなんと返事をしていいのかわからず、微笑むだけにした。

 社交界デビューしたのがわずか七か月ほど前なので、会話運びに困る時がまだ多い。

 使用人の案内で伯爵家の母娘が去っていくと、パトリシアは天井に向けて息を吐いた。

(貴族の方とお話するのに、いつ慣れるの?)

 長時間、作り笑顔をキープしていたので頬の筋肉がつりそうだ。

 指先で頬をマッサージしていると、玄関ホールの方からエイミが小走りで駆けてきた。

「ちょうどよかったわ。これからお見舞いに行くから、不在のごまかしをお願い。いつも協力してくれてありがとう」

「今日は無理です」

 エイミの小鼻が開いている。

 興奮しているような表情を見て、パトリシアは外出が無理な理由を悟った。

「もしかして、今日も殿下が?」

「そうです。すぐそこまでいらしています」

 エイミが肩越しに振り向くと同時に、廊下の奥からアドルディオンが現れた。

 白いブラウスと黒いズボンという軽装の彼は誰も伴わず、優雅な足取りで近づいてくる。