まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 メイド服に着替えたパトリシアはひとりで王城を抜け出し、乗合馬車に揺られて母が入院している病院までやってきた。

 レンガ造りの大きな病院は四階建てで、母の病室は最上階だ。

 階段を上るパトリシアの腕には手提げ袋がかけられており、ピンクと白のカーネーションの花束が覗いていた。

(今日はお花だけ。せっかく作ったトマトスープは持ってこられなかった。残念だわ)

 アカゲラ騒動で見舞うのが遅くなり、病院で夕食が出される時刻になってしまった。

 食欲のない母に、夕食と同時に差し入れのスープも出すのは酷である。

(でも雛を無事に巣に戻してあげられてよかった。ヒヤッとしたけれど)

 木から落ちそうになったことではなく、夫についてだ。

 素性を怪しまれたらどうしようかと思ったが、それどころか叱られもしなかったのは驚きだ。

(殿下はお心が広いのね。それとも私に大して興味がないから、注意する気にもならないのかしら)

 感情の読み取りにくい美麗な真顔を思い浮かべつつ階段を上っていると、上階から看護師が下りてきた。

 母を担当してくれている三十代の女性で、パトリシアは会釈する。

「いつも母がお世話になっています」

「クレアさんの娘さん、今日もお見舞い? メイドのお仕事は大丈夫?」

 紺色のワンピースに白いエプロンというメイド服は、襟に小さく国旗が刺繍されている。