まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「危険がなければいい。お転婆な王太子妃がいたっていいだろう。パトリシアが並みの貴族令嬢でないのは最初からわかっている」

 舞踏会でアドルディオンからのダンスの誘いを断った彼女が、ひたすら食べ続けていたのを思い出して笑った。

 社交場での作り笑顔には慣れているが、声に出して笑ったのは久しぶりだ。

 ジルフォードが驚いたような顔をして、それから目を弓なりにする。

「妃殿下をお気に召されたのですね」

「契約結婚のようなものだと言ったはずだが」

 信頼している近侍にだけはクララの死に追いやった罪悪感や、パトリシアと普通の夫婦関係を築くつもりがないことを話してある。

 後継ぎを心配されたが、三歳になる姉の息子をいずれ養子に迎えるつもりなので王家の存続に問題はない。

「そうでございましたね。失礼いたしました。ですがティータイムをご一緒されるくらいならよろしいかと。今回のように独断での危険行為に使用人が驚く前にひと言ご相談くだされば、殿下が駆けつける必要もないかと思います」

 もう少し交流を増やすべきだと助言する近侍に、そっけなく答える。

「考えておこう」

 しかしクララに似ている妻とのお茶の席を想像すれば、鼓動がわずかに高まった。


* * *


 西の空がオレンジ色に染まる頃。