まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 しかし今、目の前でしどろもどろに木登りの言い訳をしているパトリシアに鼓動が高鳴っていた。

(お転婆なところがあるとは思わなかった。伯爵領の田舎屋敷にこもっているのではなく、活発に外遊びをしていたのか。まるでクララのような身のこなしだ。そういえば年も同じ。生きていればクララは十八になる)

 類似点を発見すれば妻への興味が急に膨らんだ。

(よく見れば、顔立ちもクララに似ているな。髪や瞳の色も)

 ゆったりと波打つ栗色の髪は外光のもとだと桃色がかって見え、瞳は夕日のようなオレンジ色だ。

 特別珍しくない色合いだが、温かで活発なクララの人柄によく合った色だと感じた記憶がある。

 肌色はパトリシアの方が白いと思ったが、クララも日焼けしていない部分は色白だったと思い出した。

(似すぎていないか……?)

 動悸が加速し、勝手な想像が広がる。

(本当はクララは生きていたのではないだろうか。母親がなんらかの理由でクラム伯爵に出会い、見初められて結婚し、クララは伯爵家の娘に――いや、なにをバカなことを考えているんだ)

 生きていたなら、ハイゼン公爵が嘘をついていたことになる。はなから面倒で捜索する気がなかったなどと、まさかそこまで非情な人間ではあるまい。

 過去にクラム伯爵夫人と挨拶を交わしたこともあるが、クララの母親ではなかった。