まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 悲しみと後悔で涙がとめどなくあふれ出る。

(俺のせいだ。俺が兵士を止められていれば。いや、クララの見送りを拒否していれば……違う、俺に出会わなければクララが亡くなることはなかったんだ。なんと言って詫びればいいのかわからない。クララにとっての悪魔は俺だった)


* * *


 ショックのあまりそこから先、数日間の記憶があいまいだが、公爵から慰めにならない励ましをもらったのは九年経った今でも覚えている。

『痛ましい結果でございますが、そこまで気を落とされずともよろしいのでは。たかが平民の娘がひとり亡くなっただけでございます。殿下の名は伏せて、葬儀費用にと母親に金貨を渡してまいりました。償いとしては十分でしょう。あの娘については早くお忘れになるのが賢明でございます。王都に帰還後はエロイーズにお茶の招待をさせましょう』

 平民も貴族も命の価値は同じであるはずなのに、『たかが平民の娘』とのたまった公爵を激しく軽蔑した。

 それまでにも平民を軽視するような政治姿勢を見せていたのが気になっていたので、この件をきっかけに側近の役目から外して別機関に異動させたのだ。

 それから九年、クララに対する懺悔の気持ちを忘れず生きてきた。妃にするという約束を果たせなかったのならば、せめて誰も愛すまいと心に決めていた。

 それがせめてもの償いだ。