まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「もうしばらく待たせておいてくれ」

「殿下はこの視察の意味をお忘れですか。陛下から試されておられるのですぞ?」

 辺境伯の動向や領地の様子が知りたいのはもちろんだが、国王はこの視察で息子の力量試しをしている。

 行方不明になっていたと知られたくはない。

 失態が国王に伝われば、仕事を任せるのは時期尚早だと政務に関わらせてもらえなくなりそうだ。もっと悪ければ、王太子の位を取り上げると言われてしまうかもしれない。

「しかし、クララが――」

 唇を噛んだら、長年教育係を務めてきた公爵が諭すように肩に手を置いた。

「どうか王太子の本分をお忘れくださいますな。その代わり、私が責任を持って少女の捜索に向かいます。必ず見つけますので、ご心配なく」

「わかった……。必ずだぞ」

 政務は公爵に教わり、今の自分がある。教育係の役目を終えても側近として支えてくれるハイゼン公爵を信頼していた。

(公爵ならきっと、無事にクララを見つけ出してくれる)

 そう信じて使者に会うことにしたアドルディオンだったが――。

 それから半日ほどして真夜中になり、村から戻った公爵に聞かされたのは残酷な報告だった。

「流された少女を河口で発見しましたが、すでに息絶えておりまして、誠に残念でございます」

 呼吸が止まり、ナイフで切り裂かれたように胸が痛んだ。