まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

遠い領地の田舎屋敷で大切に守り育てられたため社交界デビューが遅れたが、大変美しい淑女だと、あちこちで触れ回ったらしい。

「我が領地内に正妻の娘として戸籍も作った。自ら出自を語らねばわかるまい」

「は、はい……」

(深窓の令嬢? 漁港で魚を運んだり、農園でブドウを収穫したりしていた私が?)

黙っているよう命じられたためロベルトは口を挟まないが、その目は呆れていた。そんな嘘はすぐにバレると言いたげである。

パトリシアも見破られそうな気がして落ち着かず、嘘をつくのにも気が進まない。

「あの、お父様、もし私の出自が誰かに見破られてしまったら、どうなるのでしょう?」

恐る恐る問うと、伯爵がスッと笑みを消してすごみのある目をした。

「万が一そのような事態になれば、お前は我が家の恥だ。クレアとともに即刻、田舎に送り返す」

(お母さんを強制退院させるというの? まだ治っていないのに困るわ。絶対にバレないようにしないと。できるかしら……)

「そう緊張するな。ロベルトが面倒を見てくれるから心配せず、お前は初めての舞踏会を楽しめばよい」

これまで他家の貴族と交流はなく、今夜開催される王城舞踏会が社交界デビューとなる。

この舞踏会は毎年年末に催されており、招待されるのは未婚の貴族だけなのだそう。

早い話が集団お見合いだ。