豪華に整えられた王太子妃夫妻の寝室で、十八歳のパトリシア・クラムは五度目の深呼吸をした。

肩下までのゆったりと波打つ栗色の髪は光にあたると桃色がかって見える。

侍女の手によりサイドは上品に編み込まれ、サラッとした前髪の下ではつぶらなオレンジ色の瞳が不安げに揺れていた。

(落ち着かないと)

湯浴みをしたのは三時間も前なのに、色白の肌がなんだか火照って頬が赤い。

光沢を放つシルクのネグリジェに振りかけられた香水が甘く鼻腔をくすぐり、〝ともに寝る〟という行為を必要以上に意識させられた。

目の前にある天蓋つきのベッドはオイルランプの光に照らされてなまめかしく、その傍らに立ち尽くしているパトリシアは高鳴る鼓動に静かに耐えていた。

夫はまだ来ていないというのに平静でいられず、手が汗ばむ。

(今夜から同じ部屋で寝るだけで、体を重ねるわけじゃないのに……)

この国、バシュール王国の王太子、アドルディオン・ルシファ・バシュールのもとに輿入れしたのはひと月ほど前である。

しかし『妃は必要だが形だけでいい。夜伽も不要』と言われているので、これまで寝室は別であった。

それが今日の昼間に突然やってきた彼から、『今夜から寝室を同じにする』と命じられたのだ。