(とりあえず、家に帰ろう……)

いつの間にか日は暮れ、漆黒の空には美しい月が浮かんでいる。どこか儚い光を見ているうちに、私は自然と呟いていた。

「消えてしまいたいなぁ……」

恋という複雑なものがない場所へ、消えてしまいたい。そう思った刹那、ずっと我慢していたものが壊れて、頰を涙が伝った。

「もう嫌だ。消えたい」

乱暴に涙を拭いながら私は言う。家に帰ってから泣く予定だったのに、こんなところで泣いてしまっている。誰かに見られたら恥ずかしい。でも、止めることはできない。

「うっ……あぁ……」

声を殺したいのに、口からは出てきてしまう。こんな自分大嫌いだ。こんな私だから、ヘンリーは私じゃなくてジョディを選んだのかもしれない。

「こんばんは。そんなに擦ると傷になってしまいますよ」

後ろから優しい男性の声が聞こえてきた。泣いている私を見て揶揄っているんじゃなさそうだと、声のトーンでわかる。

ゆっくりと振り返ると、そこには背が高くて華やかな顔立ちの男性が月明かりに照らされていた。こんな綺麗な人、スクリーンの中でしかきっと見たことがない。