異国の地で出会った財閥御曹司は再会後に溺愛で包囲する

「翠々さんにもう一度チャンスをあげたくて来たんだ」

　会話が止まるのと同時に考え込んだ私の様子をうかがいつつ、光永さんがニヤリと笑ってそう言った。
　お見合いをしたときにも感じたけれど、この人のなんともいえない不気味な笑顔が嫌で仕方ない。

「どういう意味でしょう？」

「もちろん僕とやり直すチャンスだよ。君が考えを改めるなら僕が両親を説得する。マンションを追い出されて、ひとりで借金を返済していくのは大変だろう？」

「ま、待ってください」

　叔母はろくに話も聞いてもらえずに帰されたから、私との縁談をもう一度考えてほしいとは訴えていないはずだ。
　空港のカフェで会ったときもそんな話はしていなかった。どちらかといえば、破談になったと叔母はあきらめていた。
　だけど借金のことやマンションを追い出されるといった私の個人的な事情まで知っているとなると、光永さんと叔母が勝手になにか話している可能性は否定できない。

「申し訳ないですが、あなたとは結婚できません」

「寝室の件が引っかかっているんだろう？　それはこちらも善処するよ」

「それだけではなくて」

「いいのかな？　このままだと叔父さんの会社とのビジネスを辞めることになるよ？　いっさい手を引くってパパが言ってる。それは困るよね？」

　光永さんの言葉を聞いた途端、私の身体にゾワゾワと鳥肌が立った。
　この人はニヤニヤと気味の悪い笑みをたたえてはいるものの、私を脅しているのだ。

「いっこうに困らないと思うが」

　気がついたら琉輝さんが私の隣に立ってやさしく肩を抱き寄せていた。