異国の地で出会った財閥御曹司は再会後に溺愛で包囲する

「琉輝さんは“社長”なんですか?」

 このレストランに入店するときも、ホール担当のスタッフが彼の顔を目にした途端、頭を下げたあとにピタリと静止をするていねいなおじぎをしていた。
 なので間違いないのだろうと確信しているものの、私は彼の口から真実を聞きたい。

「一週間前にこっちに転勤になってからは、そういう肩書になってる」

「スターレイル・エアポートの? 普通では考えられないですよ」

 真顔でつぶやく私に、とりあえず乾杯しようと琉輝さんがワイングラスを掲げる。
 初めて飲んだ高級なスパークリングワインは辛口で、うまくいかない私の人生を象徴しているかのようだ。

「翠々には話してなかったけど、俺の家族の話を聞いてくれる?」

 苦笑いを浮かべた彼が、コクリとうなずく私をやさしい眼差しで見つめる。

「スターレイルエアの創業者は俺の曾祖父(そうそふ)なんだ。ずっと一族経営で、今は父が社長、祖父がグループ全体の会長職に就いてる」

「え?!」

「そういう反応になるよな。だから話すのをためらってた」

 思わず目を見開いてしまったが、彼の表情を読み取ってあわてて元に戻した。
 こうして過剰反応されると予想していたから琉輝さんは話しづらかったのに、私はなんて思いやりに欠けた人間なのだろう。

「ごめんなさい」

 けれど驚いたのも無理はない。スターレイルエアはたしか財閥系だったはず。
 ……思い出した。鳴宮財閥だ。琉輝さんの名字も鳴宮なのに、今になって気づく自分の鈍感さに心底あきれる。

「謝らなくていいよ。伝えてなかった俺が悪い」

「いえ……」

「翠々とはただの男と女でいたかったんだ」

 意味深な言葉を聞き、ドキンと大きく心臓が跳ねた。
 二年半前にアメリカで初めて見たときもそうだったけれど、にこりと笑った彼の顔は本当に綺麗で魅了される。