「ふふ、大丈夫よ。あんなの、子狐ちゃんのせいじゃないわ。断られた理由の殆どは、私の火傷痕なんだから」
「……!」

 気を使って明るくそう告げると、子狐はさらに涙を増して、きゅんきゅん泣き始めてしまった。

「子狐ちゃん、し、静かに! だめよ、ばれたら追い出されちゃうわ」
「……!!」
「どうしたらいいのかしら……悲しいことがあったの? 大丈夫よ、こっちにおいで」

 さぎりが招き寄せると、子狐は大人しくさぎりの膝の上に乗ってくる。

「大丈夫、大丈夫。さぎりが付いてますからね」
「きゅーん」
「良い子良い子。さあ、ご飯にしましょう」

 さぎりは、二人前の食事を用意し、一人分を子狐に与えた。
 萩恒家に居る頃から、この子狐は、人間と同じ食事を所望するのだ。狐は雑食だというし、まあそういうこともあるのだろう。

 腹が膨れて眠そうにしている子狐を、さぎりは湯に入れて洗い、トイレにいざない、ベッドの上で寝かしつける。
 そうして、子狐が眠りについたところで、自分も湯あみのため、宿の風呂を借りた。

(小さな宿でよかった。このお風呂、一人ずつしか入れないわ)

 この火傷だらけの体で、大浴場に入ろうものなら、きっとつまみ出されてしまう。

 そう苦笑しながら、さぎりは湯につかる。
 精神的にも肉体的にも、疲れ切っていたところに、湯の暖かさが沁み入るようだった。

(これから先、がんばらなきゃ。子狐ちゃんを泣かせている場合じゃあないわ!)

 さぎりは、湯の中でうずくまったまま、落ち込んでいる場合ではないと、拳を握って奮起するのだった。