命に従い、使用人達は龍美家の者を押しのけ、一気に動き出す。
 そうして、歩み寄ってきた御影に、希海はパッと笑顔になると、勢いよく駆け寄った。

「御影ばーちゃん!」
「希海ちゃん、無事でよかった」

 抱きしめて、頭を撫でてくれる御影に、希海はさらさらの黄金色の髪を揺らしながら、満足げな笑みを浮かべる。

「呼び方は、のんちゃん、の方がいいかしら。それとも、子狐ちゃん?」

 ハッと固まる希海に、御影はくすくす笑っている。
 そして、崇史とさぎりに向かって、微笑んだ。

「奥様」
「遅くなってごめんなさいね。帰りが遅いなと思ってから動き出したものだから、後手に回ってしまって」
「いえ、そんな……有り難うございます。全てご存じだったのですね」
「最初から全てという訳ではないのよ。それより、医者をつれてきたから、()て貰いなさい。……痛かったわね」

 腫れた頬と、首の絞められた痕を見て、御影は顔を曇らせる。
 その優しさに、大丈夫と微笑もうとして、ふと、体に力が入らないことに気が付いた。

 そういえば、腕をナイフで切られていた。
 着物がしっとりと重いと思っていたけれども、もしかして血が止まっていなかったのかもしれない。

「さぎり!」

 そう叫んだのは、崇史だったのか、希海だったのか。

 そのまま、私の視界は真っ黒に染まったのだった。