さぎりが呼んでいる。
 いつだって、誰にも助けを求めることのない、彼女が。
 強くて弱くて、折れそうな程か弱いのに、前を向いて揺らがないあの人が、崇史に助けを求めている。

(さぎり!)

 崇史は、想いのままに走る。
 走って走って、まだ届かなくて、もどかしさのままに、足りない物を欲した。
 速さが足りない。力が足りない。さぎりを、希海を、大切な二人を守る力が足りない。

 もう、四年前のように、失いたくはないのに。

 歯を食いしばり、心を燃やし、結界に護られた龍美家の本邸が緋色の瞳に写ったその時、ふと、崇史の中で、狐が(わら)ったような気がした。

 そうして、崇史はその姿を、大狐へと変えていく。

 どうすれば良いのか、この力をどう扱えば良いのかは全て、崇史の中にあった。

(さぎり、希海!)

 想うのは、願うのは、愛しい二人の無事。

 崇史の脳裏で、もう一度、(きつね)(わら)ったような気がした。