「皆の者、逃げなさい!」
「ですが、美月様!」
「これは仕組まれたもの。我ら萩恒家の血を引く者を逃がす程、敵も甘くはないでしょう。けれども、お前達は違う」
「しかし……」
「希海を頼みます。行って!」

 そう言いながら、美月は真っ直ぐに敵を見つめ、此方を見ることはない。

 使用人達は結局、なす術なくその場を逃げ出した。

 この時、さぎりは美月の命に従い、母に向かって駆け出そうとする二歳の希海を抱え、本邸内の秘密の地下部屋へと逃げ込んだ。

 現れた妖怪達は皆、異能を持つ者ばかりを狙っている。
 おそらく今、希海を連れて外に行けば、妖怪達が追いかけてくる。そして、使用人達だけの力では、希海を守ることはできない。
 希海を助けるには、彼女を見つからない場所に隠し、その間に本邸内の妖怪を美月自身が一掃するより他は無いと、彼女は判じたのだ。