「いやっ! や、やめてください! やめて!」
「五月蝿い! お前のような醜女(しこめ)に手を出すものか! ……っ、何か、隠し持っているだろう、大人しく――これか!」

 男は抵抗するさぎりの着物の衿を無理やり引き下ろし、半襦袢の上、首から長い紐で吊されたお守りを見つけた。迷わずその紐を引きちぎると、男はためすがめつそれを見つめる。

雲霞(くもがすみ)の……!? 龍美家の分家の力か! 物自体は音梨(おとなし)か?」
「……な、何を」
「敢えて意識を向けるか接触せねば、周りの者が持ち主に気付かぬよう、力が込めてある。道理で見つからなかったはずだ。お前、これをどこで手に入れた」
「……!?」

 それは、御影がさぎりに渡してきたお守りだ。
 外に出る時は、必ずつけて出るよう、言い含められたもの。
 異能の力が込められている具物は、希少で高価なものだ。御影はそんな貴重なものを、さぎりを守るために渡してくれていた……。

「答えないか、この愚図が!」

 男に横面を叩かれ、さぎりは床に倒れ込む。
 それを見た希海から、悲痛な悲鳴が上がった。
 その悲鳴を聞いたさぎりは、希海を守るべく顔を上げ、気持ちを振り絞って男を睨みつける。

「……そ、そんなことより、あの香り袋はなんです!」

 さぎりは、男の質問には答えず、疑問を投げつける。
 男に御影のことを言いたくはなかったし、ここから逃げ出すために情報を集めるべきだとも思った。
 けれどもさぎりは何より、あの香り袋のことを知りたかった。

 官憲達が持っていたもの。
 希海を苦しめている原因。

 そしてそれは、四年前に萩恒家が襲撃されたあの日、希海の母――崇史(たかし)の姉・美月(みつき)を苦しめたものだったからだ。